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医学博士だけが知ってること

執筆者の写真: Shinichi ShimaderaShinichi Shimadera

医者には博士号を持ってる人と持ってない人がいる。医学部を卒業し、医師国家試験に通れば晴れて医師になれる。ただその次に「博士号を取らないか」とお薦めされることがある。

大学病院時代にその使命は臨床、教育、研究だとコンコンと言われた。患者さんを治し、医学生を教育し、そして難病の研究をする。患者さんを治すことだけでも大変なのに、そんな研究までは自分は結構ですと若い時は思う。早く手術を習得して、一人前になって多くの患者さんを救いたい、そのために医者になったのだから、と誰しも思う。私も類に漏れずその一人だった。だから最初に当時の教授に大学院を薦められた時、「私は研究には興味ありません」と断った。でもその後、直属の上司に「あほー!お前は何も分かってない。小児外科を続けたかったら黙って大学院に行け!」と叱咤された。ただそれには訳があった。上司は私が小児外科が大好きなことを知ってはいたが、ただそれまで自分の思いだけで研修病院を渡り歩き、せっかく取った認定医を活かすことができていないことを憂慮して、「大学院へ行ったら4年間は自動的に大学に居ることになり、他の病院には飛ばされない。その先も嶋寺に光るものがあれば大学に残ってじっくり腰を据えて、大学内に嶋寺の名声を轟かせろ」と叱咤された。結果的に私は8年間大学病院へ勤めて貴重な経験を積み、部長で草津総合病院へ移ることができた。

大学院は博士号を取るための超特急コースである。文科省科学研究費を取れば一目置かれる。その成果を研究論文にすれば、その科の柱となる。

私は胆道閉鎖症の柱だった。ここまでは別に博士号を持ってなくても経験できる。ただここから先、博士号を取るとなると少し事情が違ってくる。

博士号取得には審査がある。それにはまず自分の研究論文を自分が所属する科の教授に認めてもらい、次いで主査一名、副査二名に認めてもらって初めて博士号は頂ける。私の博士号の番号は、京都府立医大、甲1977号である。

つまり医学博士とは親代わりである自分の所属科の教授はもとより、さらに三人の審査官に「心底頭を下げることが出来る人」が頂ける称号である。逆に「俺が一番」と天狗になってる人には縁がないものとも言える。

時々総合病院の部長になるには「博士号」が必要と聞いたことがある。自分が取るまでは、なんだその条件と思っていたが、取ってからは何となく納得がいく。

医学、医療とは未知なるものにも真摯に向き合い、人であれ物であれ、時代であれ、縁であれ、折に触れ、頭(こうべ)を垂れる必要がある。医学博士はそういう人を言うのであろう。あの時、若気の至りでじゃじゃ馬気味だった私を、パワハラぎみに「大学院へ行け」と叱咤した上司には感謝しかない。

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