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小児の看取り

執筆者の写真: Shinichi ShimaderaShinichi Shimadera

先日、小児患者を看取った。そう滅多にあることではない。

その子は生まれる前から異常が分かっていたが、苦悩の末、両親は出産を迎え、何とか無事この世に生を受けた。

心臓の先天異常、長くは生きられない、そう言われながら、1年を超えた。ただ病院でのその重症管理は絶妙で、その病態生理を理解できた瞬間、私は例えようのない感動がこみ上げてきて、これなら行けるという確信のもと、在宅主治医を快諾した。

そして、全身管理が安定した状態で家に帰ってきた、はずだった。


帰ってきてすぐ風邪をひいた。「この子は寒いのが苦手だから」と母。そして風邪薬を1種類だけだした。

程なくして、母がポツリと言った。「時々心拍が落ちるんですよね」

何度か困難をともに乗り越えて来られた母のつぶやきは意味深かった。

私の中では風邪を乗り越えれば何とかまた安定すると思っていた。しかしその「落ちる」頻度が増え、とうとう酸素の数値も悪くなり、濃縮酸素を使うことになった。


「今回のは乗り越えられない気がします」と母がまたポツリと言った。そこからの急変は早かった。


死亡診断書には直接の死因とその原因という欄がある。私は直接の死因「心不全、3日」、その原因「大動脈弓離断複合、1年5ヶ月」とした。そこに込めたものは、生後1年5ヶ月まで絶妙な管理をして頂いた病院、そしてご両親への感謝と敬意、そして最後3日間はどうすることもできなかった私自身への戒めだった。


亡くなる当日の日中、状態が悪化する中で私は在宅での限界を感じ、ご両親に最期の問いかけをした。再入院をして状態を立て直して頂くか、それともこのまま在宅で看取るか。その問いにご両親は「家でこのまま先生にお願いしたいです」と即答された。それを思い出すと今も涙が止まらない。


ご自宅には生前にご兄弟と一緒に撮られた写真がある。この子と過ごした1年5ヶ月がご家族にとって良い思い出になることを祈るばかりである。


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