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小児外科日帰り手術のコツ

執筆者の写真: Shinichi ShimaderaShinichi Shimadera

更新日:2023年11月22日

 今度、医師会の月報の巻頭言を任されることになりました。あいうえお順だそうですがが、医師会の重鎮先生もご覧になる月報に私ごときが何を今更紹介すればよいのかと考えた末に自分の専門性を活かした日常診療の紹介をしようと思い、筆を取りました。

 関の地に来て早くも7年。この地で小児外科クリニックを開き、毎週小児の日帰り手術をやっていると言うと、外科医の方でも驚かれるかもしれません。危険なことをクリニックレベルで無理してやっているのでは、と思われる先生方もおられると思いますので、一体どんな風に手術が進んでいくのかを改めてご紹介したいと思います。

 手術症例は満一歳、体重9.5kg以上を適応としています。対象疾患は鼠径ヘルニア、臍ヘルニア、皮下腫瘍、真性包茎、停留精巣、耳瘻孔などのいわゆるマイナー疾患です。手術希望者には日帰り手術のメリット、デメリットを外来で説明して、了承を得て日程調整をします。手術は金曜日、術前検査はその1週間前の金曜日に行い、採血、胸部レントゲン、心電図検査で事前に全身麻酔のリスクを除外しておき、手術の詳細の説明を行い、同意書を交わします。

 実際の手技ですが、まず麻酔導入はslow inductionといってセボフルレン、酸素、笑気を麻酔器(Acoma社製)でブレンドしてマスク換気で入眠の後、ラリンゲルマスク(Ambu社製)を咽頭奥に入れ固定する。このことでマスク換気よりも確実に気管内に麻酔薬を送ることが可能となります。点滴を入れ(24Gジェルコプラス)、薬液は通常の補液と抗生剤程度で筋弛緩薬や循環作動薬、静脈麻酔剤は原則使いません。麻酔深度は専ら麻酔器で調整し、そのまま術者は手洗い、清潔ガウン、手袋着用の上、患部を消毒して、シーツを掛けて手術を開始します。直介ナースは前立ちも兼任します。手術時間は30分から1時間程度で終わるものに限っており。鼠径ヘルニアはPotts法のみで、腹腔鏡手術は行っていません。手術が終了すれば、ラリンゲルマスクを抜去し、マスク換気に変え、麻酔薬を切ってそのまま覚醒を待ちます。約1時間経過観察の後、経口飲水摂取をして頂き、嚥下に問題なければ帰宅可能としています。翌日は必ず診察に来て頂きます。

 以上のような流れですが、言うは易し行うは難しで、術前検査だけでも開院当初はすったもんだしました。不安になって泣く子をなだめすかして心電図を取るために、検査室の壁はブラックライトで光る星の壁紙を使用し、気持ちを和ませています。レントゲン装置にも一工夫しており、アンパンマンのステッカーを貼り、「ほらアンパンマンが応援しているよ」と言って体動が止まった瞬間に撮影。そして「ほらホラーマンが出てきた」と言ってモニターを見せています。

 麻酔のslow inductionだけは両親にも説明して「30秒の我慢ね」と言って泣いているうちに寝ます。ただその後、気道過敏から喉頭痙攣を起こすことが無いわけではないので、麻酔導入時と覚醒時は緊張します。それを少しでも回避するために様々な工夫を重ねていますが、その部分は企業秘密です。冗談はさておき、最も大事なことは風邪気味の子は手術を延期することです。ただこれは一大決心です。手術を受けると決めた親御さんは我が子の一大事のために休みを取り、手術に向かって1週間近く準備してきたにも関わらず、手術当日に延期となると今までの苦労が水の泡となります。しかしそこは「無理は禁物」とじっくり説明、理解を求めねばなりません。一歩間違えると、「こんな小さいクリニックで手術するのはやはり危険だ」と誤解を招きかねませんし、二回目の手術は予約されない可能性も出てきます。その信頼関係のやり取りはやはり外来の時点から始まっているのだといつも自分に言い聞かせる毎日です。

 最後に、これは信頼につながるかどうか分かりませんが「私は手術が好きです。手術は手術が好きな人にして頂くべきです。」と前面に出しています。「私、失敗しませんから」のドラマ「ドクターX」の大門未知子ではないですが、「好きこそものの上手なれ」で、手術が好きな人は成功へのノウハウを沢山もっているものです。だって外科医はマエストロですから。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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