抗生物質を飲んでいて、下痢と発熱が続く時、それは偽膜性腸炎あるいは耐性菌のサインかもしれないのですぐに投与をやめないといけない。抗生物質を使うことで誘発される病気があることを医師であれば皆知っているはずである。知らずに安易に抗生物質を出すことは罪である。
私が関の地に来て一番に思ったのはMRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)が多いことである。乳児湿疹の重症例、臍の化膿、とびひ、傷の化膿などで培養検査をすると高い確率でMRSAを検出する。これはこの地がARM(薬剤耐性)が多いというサインである。その原因は安易な抗生物質使用であることは明白で、これは私が研修医の時に指導されたことである。
昔、ペニシリンの登場で医療は劇的に進歩した。感染症で命を落とす方が減り、寿命が延びたと言っても過言ではない。その後、抗生物質はどんどん開発が進み、今では簡単に手に入り、自由に使えるようになった。ただそれが諸刃の剣であることを知らなくてはならない。現に私の医学部時代の同級生で家が医者という奴は幼少時から熱を出す度に抗生物質を飲んでいたせいで、普通の抗生物質は効かない体になっていた。
現代においてもまだ、風邪を引けば抗生剤、熱を出せば抗生剤、余った抗生剤を常備しておいて、次の風邪の時に使う。こんな話をよく耳にするが、ほぼ間違いである。なぜなら熱の原因はまず風邪で、風邪の原因はウイルスで、ウイルスには理論的には抗生物質は効かないからである。
滋賀県では一時とある小児科教授の力で一斉に外来での抗生物質使用をやめた。滋賀県下のクリニックで抗生物質を処方するとその教授から電話が来て叱られる、そんな逸話も出回ったくらいである。
折しも、厚労省は先のARMを重くみて、保険点数に小児抗菌薬適正使用支援加算、耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算を算定できる体制を作った。その驚きの内容は外来で抗生物質を処方しなければ点数を取れるというものである。そのおかげで徐々に国全体の外来での抗生物質処方は小児科、耳鼻科専門のクリニックからは減って来た印象である。
ただ抗生物質を処方しない主義の当院も今年は溶連菌の大流行で普段以上に抗生物質処方が増えているが、必ず溶連菌の検出検査や採血、レントゲン、診察所見をもとに抗生物質使用の大義名分をつけることにしている。ここで皆さんにお願いしたいのは、他のクリニックで抗生物質を処方された時はその意味を聞いておいて下さい。それは冒頭に述べた「抗生物質を飲んでいて下痢、発熱が続く」という相談を受けた時、偽膜性腸炎を疑って抗生物質を中止したいところではあるがその処方理由が溶連菌や中耳炎、副鼻腔炎、肺炎といった使用目的のある時は、それが治っているか否かで抗生物質を変更する必要もあるからである。つまり今後は患者さん側が医師の出す処方の理由を理解しないといけない時代になってきたということである。みなさまの命を守るために、ご理解ご協力をお願い申し上げます。
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