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親子別々の大事な瞬間

執筆者の写真: Shinichi ShimaderaShinichi Shimadera

更新日:2022年7月15日

点滴や採血という絶対に失敗出来ない処置の時、私は子供さん(患者)だけ預かり、親さんにはあえて待合室で待って頂く。親と離れると子供は不安になって泣く、あるいは暴れる。でもそこで私は患者さんに説明する。「先生も頑張るから〇〇ちゃんも頑張ろ」

「一緒に10数えよ」

「お母さんも頑張れって言ってるよ」

「大事な検査をするから」

「お熱の原因が分かるから」

色々語録はあるが、嘘は言わないようにしてる。


そしてここからが本番です。

いつも同じようにバスタオルで巻いて、いつも介助者は2人。針や駆血帯、スピッツを入れたワゴンはいつも私の右側に置き、全ての用意をしておいてさあ開始。


一発で決める!常にそう心に誓ってやる


そうでないと私を信じて子供さんを任せて、外で待っている親さんに申し訳ないから。


子供は真剣に話せば大概は分かってくれる。泣いて、大暴れしていても、「今大事!」と言えば動きが止まる、ことが多い。


下手に「痛くないよ」とか、「一回だけだよ」とか言って、いざ失敗した時には言い訳がややこしい。信頼関係がそこで崩れてしまう。


昔から私は点滴、採血は得意な方である。大学病院時代には処置番が私なら喜んで頂けることも多かった。それでも病気で毎日点滴をしている子などは、俗に血管が潰れてるから難しい。必ずしも一発とはいかない。場合によっては点滴を入れるのに1時間近くかかることもある。そうなれば処置室の外で待ってる親さんの不信感は募る一方である。でもそんな時、私のスキルを知ってる親さんが声をかけてくれる。「嶋寺先生でも時間がかかるなら、相当難しいんだと思いますよ」と助け舟を出してくれる。

「点滴、採血がうまくいかない時に決して言い訳はしない」そう教えてくれたのは研修医時代の主任看護師さんだった。やはり信頼を得るには実直に生きることだと思う。

処置が無事終わって親子が再会する時、例えようのない喜びがお互いに湧き上がってくる。そして、よく頑張ったね、とギューっと抱きしめてもらう。それで子供も苦を乗り越えた喜びを味わう。そんな瞬間である。


病気は悪業の塊という。痛いとか、苦しいとか、決して楽なものではない。この世の地獄の入口である。ところがそれを乗り越えた時、ほっと一安心、気持ちが楽になる。それが極楽の入口である。私たち医療者はそのお手伝いをするのみである。

最近体たらくな医療者も増えてきたが、そんな人には到底患者さんを幸せにすることなど叶わず、むしろ会わないに限る。

問題は地獄から人を救おうと思えば、自分も一度地獄に落ちないといけないということである。その証拠に一緒に病気をもらったり、事故に巻き込まれたりする。人を救うとはそう簡単ではない。


安倍元首相が凶弾に倒れ、帰らぬ人となった。司法解剖の発表所見では致命傷は両鎖骨下動脈損傷。それだけで即死になるのか。いや、ならない。冷静に考えれば、あれだけ大勢の人の前で倒れ、すぐに心肺蘇生が施され、救命の連鎖があったにも関わらず、救えなかった。最愛の奥様にも会えず、亡くなって行かれた。これは相当深いところまで一気に地獄に落とされ、そこに医療者の手が届かなかったのか、思いが足りなかったのか、タイミングが悪かったのか。何か具合の悪いことが起きたとしか言いようがない。そう解釈すれば、そこには相当の悪業が存在したことになる。その持ち主は誰か。安倍さんか、容疑者か、はたまた、、、。私はそんなふうにこの事件を見ている。


とにかく、人はそう簡単には死なない。生きたいと思う気持ちと、周りの人の存在と、医療技術があれば。

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