命の最前線
- Shinichi Shimadera

- 6月17日
- 読了時間: 3分
先日とある新患の新生児が茶色い嘔吐をするという主訴で来られた。嘔吐は一回、でも吐き方が変だと母親はいう。
一通りの診察をして腹部レントゲン撮影となった。何枚も撮るのは被爆の問題もあるので一枚だけ撮った。実はレントゲン一枚であれば被爆量は日光浴程度と低く、かつ適切なレントゲン撮影は一枚で沢山の情報が読めるので大変有用である。
当院のレントゲンは撮って3秒で画像が確認できるので判断も早い。
それはさておき、見た瞬間にピンときた。これはもしかしてあの疾患か。手術になるかも。
ただ両親はきっと手術なんて思ってもいないだろうから、超音波検査を追加して、「思ったほどの問題はないですよ」と両親を安心させるような所見を示そうとしたが、結果としては腸管内のガスが多くその日の超音波検査では肯定も否定もできなかった。でもどうしても「噴水状に嘔吐するあの疾患」の疑いが晴れない。そこで追加検査を両親に提案した。「明日もう一度検査をさせて下さい」と。
検査は絶食がベストだが、新生児は常にミルクを飲まないと生きていけない。絶食するなら点滴が必要、それは即ち入院となる。ただ現時点での異常所見は嘔吐とレントゲン所見だけ。しかも嘔吐は1回だけ。よほど全身状態が悪化していなければ即入院というわけにもいかない。とにかく「あの疾患」かどうかをはっきりさせるために、明日再検査をしたい。そのことだけは両親に伝えて、ミルクは1回量を半分にして与えつつ、一晩待ってもらった。翌日の超音波検査で、やはり一抹の不安通りの「あの小児外科疾患」は疑い濃厚となった。
両親に全てを話して、小児外科のある総合病院へ紹介状を書き、絶食、点滴、入院となり、無事手術を受けることができた。
大学病院にいる時は、この疾患は紹介されて受け取る側であった。しかも症状が出てから何日も経過して、何軒もクリニックを経てようやく診断がついての紹介が多かった。うちのように嘔吐1回で初めからレントゲンを撮るクリニックは少ないかもしれない。撮ったところで、この疾患特有のレントゲン像を知らないと、診断名には至らない。俗に言う「点滴くらいクリニックでできますよね」という言葉に絆(ほだ)されて、毎日点滴だけやっていてもこの疾患は治らない。入院となったとしても、この疾患は電解質異常を来していることが多いので、即日手術となることは少なく、いわゆる状態を改善してから手術をすることが多い。
手術も特殊である。名前はRamstedt手術。教科書に必ず載っている。この手術のためだけに開発された手術器具があるくらいだから、それをひと目見ようと、この手術があると聞けば、喜び勇んで見学に行った。この手術が決まれば状態は劇的に良くなる。だからこそ印象深いのかもしれない。
有名な疾患、有名な手術ではあるが、外来初診から診断に至る道筋は地味なものである。当院ではナースも真剣である。レントゲン所見から何が疑われるのか、現時点で分かっていること、これから解決しないといけないことをドクターとすり合わせして、患者さんと両親のサポートをする。小児外科疾患をたくさん経験したナースを採用しているわけではない。日々ドクターの一挙手一投足を見て、レントゲンも一緒に読んで、患者さんをトリアージしてくれている。
私は私で常に背水の陣である。自分が見逃せば、患者さんは病魔の地獄へ落ちる。適切に検査して診断して、これ以上は病院紹介が必要と判断している。
重要な疾患が隠れている時、私の心のベルは鳴る(参照ブログ:Ring a bellを大切に)。それはあたかも仏が叱咤激励してくれているようだと私は感謝する。

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